神戸地裁(平成4年12月25日判決;平成3年(行ウ)第14号)
源泉徴収にかかる所得税の納税告知及び不納付加算税の賦課決定取消請求事件
(1)判  決
神戸市中央区********
原   告 合資会社 **商店
同代表者無限責任社員
****(以下Bとする)
神戸市中央区中山手通2丁目2番20号
被   告 神戸税務署   松岡   英樹
主   文
@ 原告の請求をいずれも棄却する。
A 訴訟費用は原告に負担とする。
(2)事実及び請求
請求趣旨
被告が原告に対して、「平成元年1月27日付でした昭和61年11月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知及び不納付加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す」こと。
事実の概要
本件は、原告の無限責任社員Aの死亡退社によって、同人の相続人に、「払い戻された持分のうち出資額を越える部分は所得税上の配当とみなされる」として、被告が原告に対してした源泉所得税の納税告知及び不納付加算税の賦課決定処分について、原告が死亡退社の場合は所得税の対象とならないなどと主張して、この処分の取消しを求めた事案である。
@ 処分の存在等(当事者間に争いがない)
(a) 原告は、小売業を営む出資金4,000万円の合資会社であり、いわゆる同族社でる。
(b) 昭和60年5月原告の無限責任社員であるAが死亡し、原告を退社したが、原告には社員資格の承継について、定款に別段の定めがなく、Aの相続人であるC及びB(以下両名を併せて単に「相続人ら」という)は、当然には原告の社員となることができないため、原告は、昭和61年9月、相続人らとの間でAの出資持分を払い戻す旨の協定書を作成し、同年11月、右協定書に基づいて、相続人らに対し、Aの出資持分払戻金(以下「本件払戻金」という。)として39,829,835円を支払った。
(c) 被告は、本件払戻金のうち、Aの出資金の額73万円(1.8%)を超える部分33,099,835円(以下「本件金額」という。)は、所得税法25条1項2号に規定する配当等の金額とみなす金額(以下「みなし配当」という。)に当たるとして、原告に対し平成元年1月27日付けで、昭和61年分の源泉徴収にかかる所得税(以下「源泉所得税」という。)について、所得税法181条1項、182条2項の規定により、源泉税の額を7,819,967円とする納税告知(以下「本件納税告知」という。)及び国税通則法61条1項の規定により不納付加算税の額を781,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定」といい、本件納税告知と併せて「本件処分」という。)をした。
(d) 原告は、これに対し平成元年1月31日、被告に対し異議申し立てをしたがその後3ヶ月を経過しても被告がその申立てに対する決定をしなかったので平成元年5月17日、国税不服審判所長に対し、審査請求をした。
(e) 国税不服審判所長は、平成3年1月23日付けで右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、右判決の謄本は同年2月6日頃原告に到達した。
(3)本件の争点
この事件は原告と被告が
@ 合資会社の無限責任社員の死亡退社による出資持分払戻金のうち、出資金の額を超える部分の金額が所得税法25条1項に規定する「みなし配当」に当たるか。
A この出資額を超える部分の出資払戻金の金額に対する課税(みなし配当に該当する部分に課税される所得税課税)が相続税との二重課税にはならないか。
B 「みなし配当」に当たる金額について、原告には源泉税を徴収しこれを納付する義務があること及びこれを納付しなかったことについて被告がなした不納付加算税の賦課決定通知処分は正しかったのかの適否について争った事案である。
(4)判   旨
@ 本判決は、以下のとおり判示して、原告の請求を棄却した。
(5)判   決
@ 本件金額は、「みなし配当」に当り、かつ、相続人らの相続税と二重に課税されるという関係にないから、原告は、本件金額について源泉所得税を徴収しこれを国に納付しなければならなかったにもかかわらず源泉所得税を納付しなかったのである。
A また、原告は法定納期限までに源泉所得税を完納しなかったが、それは原告が独自の誤った見解に従って本件金額が課税の対象とならないと考えたからであり、法定納期限までに納付しなかったことについて正当の理由があったとは認められないから、被告は、不納付加算税を徴収しなければならなかったのである。
B そして、本件処分に際して、被告には、これらの処分を違法になすような手続違背はなく他にも、本件処分を違法とするような事情も認められない。
租税判例年報:平成4年度
法   務   局   訟   務   部
(6)その他(合名・合資会社無限責任社員死亡退社に伴う持分払戻請求権について)の判例
@ 名古屋地裁 昭和51年(行ウ)第48号   所得税更生処分等取消請求事件
A 名古屋高裁 昭和55年5月   第167号   持分払戻請求控訴事件
B 名古屋高裁 昭和59年(行コ)第1号   所得税更生処分等取消請求控訴事件
C 名古屋地裁 平成4年11月
D 東京地裁 平成7年4月(ワ)2867号   出資持分払戻請求事件
E 東京地裁 平成9年3月(行ウ)第43号   所得税更生処分取消請求事件
F 大阪高裁 平成10年9月(ネ)第353号   合名会社社員に対する会社債務履行請求控訴事件