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東京地裁(平成7年4月27日判決;平成3年(ワ)第2867号) |
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合資会社の社員退社に伴う払戻持分の評価 |
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(1)事 実 |
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Y(被告)は、東京都内で、料理飲食業、結婚式場の経営等を目的とし大規模な土地を有し、上場会社に匹敵する経営規模を誇る合資会社であり、X1ら(原告)は、Yの有限責任社員であった。X1の持分は、4,900分の25(0.5%)、その余のX2ら3名の持分は、いずれも 4,900分の50(1%)であった。 |
A |
(Yは定款上その存立期間を定めていないところ)X1らは、Yに対し、平成2年3月16日到達の内容証明郵便により、2年9月30日(営業年度の終わり)をもって退社する旨の意思表示をした。かくして、X1らは、退社による持分の払戻を請求し、本訴を提起した。 |
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(2)当事者の主張 |
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X1らの主張(原告) |
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合資会社の持分の評価は、再調達時価に基づく純資産方式によるべきである。Yの貸借対照表のうち、本件土地の時価は、不動産鑑定士作成の鑑定書によれば、2,197億8,665万円となり、投資有価証券を平成2年9月28日の終値をもって時価評価し、各負債を控除すると、会社の純資産額は、4,489万円余となる。したがって、X1は11億2,238万円余、X2ら3名は22億4,476万円余のそれぞれ払戻持分を有することとなる。 |
A |
Yの主張(被告) |
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X1らの持分の評価方法については、資本還元方式、その中でもディスカウント・キャッシュ・フロー方式(DCF方式)を採用すべきであり、公認会計士Kら作成の鑑定評価書によれば、その現在価値は480億7,800万円であり、これに再投資資本価格、繰越欠損金税効果、現金預金等の要素を加算ないし減算して、自己資本評価額は119億4,200万円となるから、持分4,900分の1の評価額は243万円余である。
従って、X1は6,092万円余、X2らは各1億2,185万円余の各払戻持分を有することとなる。もっとも、解散を前提とした解散価値が、資本還元価値に比べて明らかに高いと認められる場合に限っては、時価純資産方式を採用する必要があるが、この場合にも、バブルの影響部分を排除するために収益還元法及び開発法を採用すべきであり、それによると、本件土地の時価は398億8,280万円であり、これを前提に会社の純資産額を算出すれば74億7,646万円、4,900分の1当りの評価額は152万円余となる。 |
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(3)主な争点 |
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持分評価方式 |
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X1らの主張(原告) |
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合資会社の退社社員の持分払戻については、定款に別段の定めのない限り、組合に関する民法の規定が適用され、その評価は「脱退ノ当時ニオケル組合財産ノ状況」(民法681@)に従って行われるべきであるから、純資産方式の採用が想定されている。 |
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Yの主張(被告) |
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合資会社の退社社員の持分払戻について民法の規定が準用されるからといって、その持分の評価を民法上の組合員のそれと同様に考えるべきではなく、Yの場合、会社は解散せずに存続しつづけるのであるから、持分評価の基礎となる企業評価は、ゴーイングコンサーンバリューによるべきで、その持分評価としては、資本還元方式、DCF法が最も優れている。 |
A |
清算所得に対する法人税等の控除 |
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X1らの主張(原告) |
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再調達時価による純資産方式は、継続企業価値を算定するものであり、清算を前提とするものではないから、清算所得に対する法人税等を負債に計上することは出来ない。 |
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Yの主張(被告) |
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純資産方式は、観念的に企業を解散し、その資産を売却した場合に社員にいくらか分配できるという観点から企業を評価するものであるから、売却価額から売却に要する費用及び清算所得に対する法人税相当額を排除するのは当然である。 |
B |
本件土地の評価 |
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X1らの主張(原告) |
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本件土地の価格がバブル崩壊により下落傾向にあるとしても、それはX1らの退社後の事情にすぎないから考慮すべきではなく、あくまでも退社時の取引価格を基準とすべきである。また、バブルによる異常な価格高騰部分を客観的に判定できる物差しはない。 |
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Yの主張(被告) |
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X1らの退社時における不動産価格はバブルにより異常に高騰し、不合理、不当なものとなっていたから、そのバブル部分を排除する必要があり、また、本件土地の評価に当たっては、取引事例比較法を偏重することなく、収益還元法及び開発法(開発業者の投資採算性に着目した手法)をも重視するべきである。 |
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(5)判 決 |
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以上を前提として、X1らの払戻持分を計算する。 |
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DCF法による評価額については、K鑑定士を相当と認め、これに従う。Yの平成2年9月30日現在の自己資本評価額は119億4,200万円となるから、X1らの持分割合に応じた金額は、次のとおりである。 |
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X1 |
6,092万円余 |
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X2ら3名 |
1億2,185万円余 |
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A |
資産方式については、本件土地の価格時点を平成2年9月30日現在としたC鑑 定士(乙に、本件土地の更地価格を大型インテリジェントビルが最有効利用に当たると認めた収益還元法を適用し、公示価格との均衡等にも配慮)によるので、本件土地の時価は679億4,670万円、その含み益は、620億円7,421万円余りとなる。これを前提に、X1らの持分割合に応じた金額は次のとおりである。 |
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X1 |
1億3,083万円余 |
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X2ら3名 |
2億6,166万円余 |
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B |
X1らの払戻持分は、右@、Aの金額を6対4の比で加重平均した次の金額である。 |
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X1 |
8,889万円余 |
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X2ら3名 |
1億7,778万円余 |
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